水島くん、好きな人はいますか。
「さすが瞬さまだよね」
メニューに視線を落としたまま応える、ハカセと呼ばれた男の子。
1年生のときから瞬と仲のいい人だと記憶しているけれど、こんなに間近で見たのも、声を聞いたのも――目が合ったのも、初めてだった。
「話すのは初めてだよね。織笠さんって呼びづらいから、僕も名前で呼んでいいかな」
「……はい。あの、なんでも大丈夫です」
「僕みたいにあだ名とかあったりする?」
「えっ……と。あだ名というか、瞬がたまに……マヨネーズって、」
「――ぶはっ! あはははは! ご、ごめ……っ」
吹き出したのは隣に座る水島くんだった。
「万代……っそれ、自分から言わんでも……」
「で、でも、あだ名っていうとそれくらいしか」
「そう呼ばれて嬉しいならよかけど、嬉しくはないじゃろ?」
おかしそうに笑う水島くんに、そういうことか、と赤らむ顔を斜め前に向けた。
「い、今のは無しでお願いします……」
「残念。じゃあ万代で。僕のこともハカセでいいよ」
残念? 聞き間違い? ジョーク? ……ってことにしとこう。
「うん、……じゃあ、ハカセくん」
「ハカセくん!」
「言うと思った!」
水島くんとみくるちゃんがそろって哄笑し、当惑からハカセくんを見遣やる。いつの間にかセルフレームがネイビーに染まるボストン型の眼鏡をかけていた彼は、微笑んだ。