水島くん、好きな人はいますか。

「さすが瞬さまだよね」


メニューに視線を落としたまま応える、ハカセと呼ばれた男の子。


1年生のときから瞬と仲のいい人だと記憶しているけれど、こんなに間近で見たのも、声を聞いたのも――目が合ったのも、初めてだった。


「話すのは初めてだよね。織笠さんって呼びづらいから、僕も名前で呼んでいいかな」

「……はい。あの、なんでも大丈夫です」

「僕みたいにあだ名とかあったりする?」

「えっ……と。あだ名というか、瞬がたまに……マヨネーズって、」

「――ぶはっ! あはははは! ご、ごめ……っ」


吹き出したのは隣に座る水島くんだった。


「万代……っそれ、自分から言わんでも……」

「で、でも、あだ名っていうとそれくらいしか」

「そう呼ばれて嬉しいならよかけど、嬉しくはないじゃろ?」


おかしそうに笑う水島くんに、そういうことか、と赤らむ顔を斜め前に向けた。


「い、今のは無しでお願いします……」

「残念。じゃあ万代で。僕のこともハカセでいいよ」


残念? 聞き間違い? ジョーク? ……ってことにしとこう。


「うん、……じゃあ、ハカセくん」

「ハカセくん!」

「言うと思った!」


水島くんとみくるちゃんがそろって哄笑し、当惑からハカセくんを見遣やる。いつの間にかセルフレームがネイビーに染まるボストン型の眼鏡をかけていた彼は、微笑んだ。
< 43 / 391 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop