水島くん、好きな人はいますか。

俯いたまま、ひとつも考えていなかった反抗の手を絞り出そうとするわたしの耳に、微かな息遣いが届く。


「ねえ……」


緊張を含んだ控えめな声に視線を上げる。瞬とみくるちゃんが顔を見合わせていた。


「あのさ。いくらなんでも今日じゃなくたってよくない? 万代、風邪ひいてるんだし……」

「だから早急に片付けんだよ。それともみくるは先送りにしたいだけか? 万代のこと嫌いだもんな」

「ちょっ……と! なんでそうなるの!? あたしそんなことっ」

「言ったようなもんじゃねえか。……なあ? 万代」


瞬が見透かすように目を細める。


「女子トイレで、みくるがお前のことむかつくって言ってたの、聞いたもんな?」


どうして瞬がそのことを知っているのかと狼狽した。


わたしは誰にも話してない。
それなのに場所まで知ってるなんて――…。


わたしが注いだ視線に泣きそうな顔をする、みくるちゃん。口を真一文字に結び、眉を寄せて、表白しづらい陰りを帯びたみくるちゃんの両目が潤み、たまらず俯いたその姿に確信する。


瞬に言ったの……? 自分から話したの?


「ごめん、万代」


どくん、と予想し得なかった状況に心臓が早鐘を打つ。


「ごめん……教室で笑いかけといて、トイレであんな……陰口叩いて、むかつくなんて言って、ごめんなさい……」


みくるちゃんの目に浮かぶ涙が、胸を強く押し潰した。
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