盲目
「ふーっ、間に合ったーっ」

教室に飛び込んで、愛李が言った。
私はそれにそうだね、と返して、会話を打ち切る。
早くしないと先生が来てしまう。

「あれ、席、前後ろだったんだ」

愛李が目をぱちぱちさせて、言った。
見れば、私の後ろの席が愛李の席ではないか。
ちょっと嬉しくなって、にこっと笑う。
愛李も楽しそうに笑ったけれど、それは、扉が開くがらがらという音で終わってしまった。

カツッカツッという音を立てながら、教室に入ってきた先生が教卓に向かっていく。
四角い眼鏡をかけた男の先生で、容姿は可もなく不可もなく、といった感じだ。

「初めまして、これから1年間、皆さんと生活していく松原 敏樹(まつばら としき)です」

にこりと笑い、落ち着いた声で言う先生。
クラス中が、がっかりしているのがわかった。
凄い美人とかイケメンな先生ってわけでもなく、不細工なわけでもなく。
やっぱり"平凡"な人はウケないみたいだ。

「では、1人1人に自己紹介を―…」

先生の声が段々と遠くなっていく。
私はすぐに、空想の世界に沈んでいった。
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