桜下心中
 もうきっと、絶命しているんだと思うが、首の後ろにハサミが刺さったまま俯せで倒れてちょっとも動かない糸田、というか元・糸田であったものを、わたしと圭太は二人で手を握りあい、見ていた。


 畳がたっぷりと糸田の血を吸っている。

 大変なことになった。


「助けようと、佐恵を助けようと思ったんだ」

 圭太がぼそりと言った。

「わたし、何もないわ、怪我とかしてないよ」

「……ここから逃げよう」


 さっと立って、圭太は部屋のドアに向かう。

 佐恵はひとまず、着物を急いで着る。

 逃げるって言ったって、いったいどこへ?


 それでも二人は夜の中を手を取り歩いた。



< 37 / 63 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop