三角形(仮)



最初は旦那の相談が大半だったが、最近では美味しいレストランの話、愛犬のチップの話、お気に入りの映画や本の話、鏡花さんの家族や幼少時代の話をしてくれるようになり、旦那の事は会話に出てこなくなった。



初めて来店した時は、ホストが初めてあり、若い男にあまり関わらない生活をしてきた事が原因で、警戒されていた。


それが今では、よく笑い、見せてくれる表情や話してくれる内容にも深みが増した。



こういう時ホストをしていて良かったと感じる。

俺との時間は幻のようなものだったとしても、少しでも現実の辛さを忘れられるのなら。


それが結果的に良くなかったとしても、初来店の時の表情を考えれば、俺のしている事は悪くないんじゃないかと錯覚させる。









「清人ありがとう。すごくおいしかったわ」

「いえ、僕も鏡花さんの笑顔が見れて良かったです。それにここ、龍之介さんに教えて頂いた店なんです」


レストランを出て店に向かうタクシーの中。


鏡花さんは今年25歳なのに、落ち着いた話し方や雰囲気。
これまでどの様な生活を送ってきたのかが窺える。


「あら、そうなの。やっぱり№1になると色々知っているのね。」

「俺も見習わないといけませんね」

「ふふ、そうね。でも清人はずっとその位置にいて欲しいかな。‥清人には悪いけど、清人が№1になると、遠くに行ったみたいで寂しいもの。」


「嬉しいお言葉ですね。でもホストとしてはちょっと複雑です」


お互い微笑み合う。



話が途切れ、今どの辺りなのか知る為、ふと窓を覗いた。











俺は見なければよかったと後悔した。
窓から見えた新宿の風景に、










ココと知らない男が腕を組んで歩いていたのだから。





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