妖魔05~正道~
怒りがこみ上げることも、哀しみが込み上げる事もない。

感情は『無』そのものだ。

ハンスに感情を持ち出す事は無意味だと思ったのだ。

何故か。

自分でも解らない。

ただ、ハンスを殺すという事を機械的に実行する自分だけがある。

『あなた、どうしたの?』

ジャスミンが何かを感じ取ったが、俺の中には何もない。

「何でもないのさ。それで、お前は、何人殺してきた?」

「路傍の石ころを一々数えるなんて面倒くさいなあ」

「そうか」

ハンスは日々の生活の恩恵を忘れている。

人間も妖魔も、一日一日を生きているという事は奇跡だ。

誰しもが忘れがちではあるが、とてもありがたい物なのだ。

だが、ハンスは奇跡を踏みにじる悪魔だ。

悪魔に枷など無意味。

湊さんでさえ、今に扱え切れなくなるだろう。

俺はハンスの奇跡を奪う。

「どうしたよお、早くやろうぜえ?それとも、気が変わったかあ?」

「何も変わらない。お前をこの世から消して、皆を外に連れ出す」

『ギャハハハハ!今日の飯は一段とうまそうだな!おい!』

「何か考えてるなあ」

ハンスは剣先をこちらに向けて、構えを変える。

よからぬ、気配を感じる。

「それじゃあ、ここいらで終わらせるぜえ?」

ハンスの剣先から、黒い妖気が漂っている。

そして、形成したのは、黒い無数の手。

それが、一斉に俺に襲い掛かってくる。
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