妖魔05~正道~
穴が閉じていく。

だが、治療とは違う。

穴を開ける事が出来るのなら、閉じる事も出来るはずだ。

「オラのは一時的に傷口を塞ぐだけだ。完全に治すわけじゃねえ」

息を荒げ、集中しながら一つ一つの傷口という穴を閉じていく。

傷の量からして、相当な魔力を使っている。

「ふう、はあ、ぜえ」

魔力が切れたのか、塞がりが停止した。

完璧ではないが、一時的に死は免れたといっていい。

だが、本来の治療を施さなければ、どちらにしても死ぬ。

「ありがとうな、クルト」

頭に手を置いて撫でてやると、顔を赤める。

「オラを子ども扱いするな!」

魔力がないからなのか、俺が怪我人だからなのか、殴る拳に力が入ってない。

今は歩くのも辛い。

だが、じっとしてられない。

痛む傷口を携えながら立ち上がろうとすると。

辺りは、筋肉を背負ったような男達に囲まれていた。

「よう、兄ちゃん、金目の物、あるかあ?」

周囲の家の中に隠れていたのか。

それとも、ビルの中から出てきたのか。

今の状態ではろくに戦えないし、クルトも能力を使う事が出来ない。

いくら、空気中の魔力の濃度が濃いからといって、速くは回復しないだろう。

「集りは土でも食ってな」

「はあ?」

飛んでくる拳を合気によって掴んで転ばせ、顔面を踏みつける。

「ぐう」

だが、一つ回避するたびに、傷が前進に響き渡る。
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