世界を敵にまわしても


「すっげ見てんね」


前を見てた黒沢さんがあたしに顔を向けてきても、マジマジと見てしまう。


ハスキーな声すらも好みで、興味が湧いてくる。


「綺麗だと思って。今日は、グリーンのカラコン?」


目を見開いた黒沢さんに、よく見せてくれるのかと思って覗きこんだら、そうじゃなかった。


ガッと頭を掴まれて、無理矢理前方を向かせられる。


「え、あの……痛い……」

「うっさい。前だけ見てろ」


パッと手が放れて、あたしは盗み見るように黒沢さんを見上げたけど、逆方向を向いていて表情は分からなかった。


仕方なく前を向いて、雨音だけに耳を澄ます。


……会話、何かないかな。


「あ。……黒沢さん」


もう一度隣を見ると、黒沢さんは返事の代わりにあたしを見下ろしていた。


「鞄、ありがとう。前に保健室に届けてくれたでしょ」

「あぁ、いいよ別に。帰るついでだったし」

「担任ウザいとか思った?」

「ふはっ!」


何で笑うんだ。


「あー……」と言いながら、今度はあたしが黒沢さんに顔を覗かれる形になった。

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