世界を敵にまわしても
「まぁ、座りなよ。お茶菓子食べよう」
「……いりません」
「今日は和菓子だよ!」
「人の話を聞けるようになって下さい」
ついでに椅子に座ったまま移動するの、やめた方がいいと思う。
ガラガラとローラーの音を立てる先生に溜め息をついて、結局あたしはそれ以上何も言わず椅子に座った。
「モナカ好き? ゴマと白あんと栗あんと普通の餡子あるよ」
「……栗」
「俺は全部食べる」
ズルイ。
「ふはっ! 今ズルイって思ったでしょ! ほんっと顔に出るよね」
「ほっといてください!」
差し出されたモナカを奪うと、先生は喉の奥で笑った。
透明の包み紙を取りながら、あたしは何を1番に食べようか悩んでる先生を見つめる。
「……先生」
「何でしょう」
……やっぱり。
話し方も微妙に違う。
「先生の素って、どっちですか」
白あんと書かれたシールが貼ってあるモナカ。それを持った先生が、不思議そうに眉を寄せた。
「どっち?」
「教室での先生と、今の先生」
「えぇ? 一緒だよ」
「本気ですか」
「本気と書いてマジと読む」
イラッとしたのが伝わったのか、先生は喉仏を上下させて笑う。
「ふざけてないで答えて下さいっ!」
「えぇー、一緒だと思うけど違うの?」
違う。さっきも今も思ったけど、そんな無邪気に笑ったりしない。
喋り方だって、今の方がずっと柔らかい。