世界を敵にまわしても
「平気。ちょっと寝不足だったんだ」
まだ少しクラクラしたけど、何とか上半身を起こす。
「まだ寝てた方がいいんじゃない?」
「ううん、大丈夫。……晴、ずっとここにいたの?」
「あ、うん。今5時間目だけど、保健の先生いないんだよ」
わざわざパイプ椅子を持ってきたのか、晴はベッドの横であたしが起きるのを待ってたらしい。
「そっか、何かゴメン……ここまで運んでくれたんだよね」
「や、俺は全然。ていうか運んだのは俺じゃなくて……」
奏ちゃん。晴は確かにあたしを見てそう言った。
「先生……?」
やっぱり食堂で見た先生は本物だったんだ。
でも何で、既に晴に支えられてたはずのあたしを先生が運ぶの?
あんな大勢の前であたしと関わっても、いいことなんかないことくらい分かってるはずなのに。
「美月が気ぃ失ってすぐ抱き上げようとしたんだけど、奏ちゃんがお前じゃ無理だろって……失礼だよなーっ!」
苦笑する晴にあたしは何も返せなかった。
驚きと困惑が一気に襲って、晴の視線がいつもと違うことに気付くのが遅れてしまう。
慌てて「そっか」と顔を逸らしたけれど、あたしの名前を呼んだ声がいつだか聞いた時と同じ声色だった。
「知ってんだ、俺。奏ちゃんとのこと」
目を見張ったあたしに晴はただ眉を下げて、唇を閉じたまま微笑む。
そんな晴の笑顔を見たのは、初めてだった。