世界を敵にまわしても


「平気。ちょっと寝不足だったんだ」


まだ少しクラクラしたけど、何とか上半身を起こす。


「まだ寝てた方がいいんじゃない?」

「ううん、大丈夫。……晴、ずっとここにいたの?」

「あ、うん。今5時間目だけど、保健の先生いないんだよ」


わざわざパイプ椅子を持ってきたのか、晴はベッドの横であたしが起きるのを待ってたらしい。


「そっか、何かゴメン……ここまで運んでくれたんだよね」

「や、俺は全然。ていうか運んだのは俺じゃなくて……」


奏ちゃん。晴は確かにあたしを見てそう言った。


「先生……?」


やっぱり食堂で見た先生は本物だったんだ。


でも何で、既に晴に支えられてたはずのあたしを先生が運ぶの?


あんな大勢の前であたしと関わっても、いいことなんかないことくらい分かってるはずなのに。


「美月が気ぃ失ってすぐ抱き上げようとしたんだけど、奏ちゃんがお前じゃ無理だろって……失礼だよなーっ!」


苦笑する晴にあたしは何も返せなかった。


驚きと困惑が一気に襲って、晴の視線がいつもと違うことに気付くのが遅れてしまう。


慌てて「そっか」と顔を逸らしたけれど、あたしの名前を呼んだ声がいつだか聞いた時と同じ声色だった。


「知ってんだ、俺。奏ちゃんとのこと」


目を見張ったあたしに晴はただ眉を下げて、唇を閉じたまま微笑む。


そんな晴の笑顔を見たのは、初めてだった。
< 425 / 551 >

この作品をシェア

pagetop