世界を敵にまわしても

「……はぁ」

「何溜め息吐いてんの」

「……遅刻なんですけど、椿」


あたしの隣に現れた椿は飄々としながら棒付きの飴を舐めている。


「10時からじゃねーの?」

「それは一般の人が入場出来る時間!」

「へー。知らなかった」


絶対嘘だ。
いや、本当に知らなかったのかも。


再び溜め息を吐くと、何だよと言う目で見られたけど答える気にはなれなかった。


「あたしと椿は呼び込み係だから。行くよ」

「呼び込みっつーか、校内にいる奴らに券さばくだけじゃん」

「椿は一般の人に笑顔で買ってくださいって言うんだよ」


「柄じゃねー」と言う椿だけど、それが晴の戦略らしいからしょうがない。


携帯を開くと、時刻は9時45分をまわったところだ。


あたしが歌うのは、全校生徒と教員だけで行われる後夜祭。


それが終わったあとは校庭でちょっとした花火が打ち上げられるけど、あたしにとってそれは興味の対象にならない。


たった一度きり、10分にも満たない時間で、あたしは先生だけに向けて歌う。


それまでは自分がやるべきことをやるだけだ。
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