世界を敵にまわしても
姿勢のいい後ろ姿も、前髪の長い黒髪も、眼鏡の奥にある綺麗な二重も。ハッキリと思い出せるのに、現実で見ることは出来なくて。
「……」
カチ、と携帯のボタンを押す。
あたしが今日歌うことを知ってるのは、椿と晴とヨッシー達だけ。先生には、椿が言ってくれた。
歌うことは言わずに、後夜祭に必ず来いとそれだけ告げて、返事も聞かなかったらしいけど、あたしはそれで良かった。
きっと来る。
そんな根拠もない自信があったから。
だけど、もし根拠があると言うなら、それは今までの積み重ねだ。
先生のこと、分からない部分もあるけど。同じくらい分かってる部分だってあるから。
カチカチと文章を打って、出来たメールを眺める。
何度も何度も、晴たちの演奏と大歓声を耳に入れながら、繰り返し読んだ。
「……えーっ! 今日は、実はこれだけじゃありません! もう1曲、新曲やりまっす!」
そう晴の声が聞こえて、あたしは持っていた携帯に額を付けた。
……伝わりますように。
メールの本当の意味が、あたしが歌う意味が。
誰よりも1番、先生に、先生だけに、伝わりますように。
「ボーカルはサプライズゲスト! 俺と同じクラスの、高城美月です!」
「……行ってきな」
ざわめく体育館の振動を感じながら、あたしは椿に微笑んで、携帯を閉じた。今頃先生の携帯に、メールが届いてる。
――先生。
あたしの願いは、たったひとつだけ。