世界を敵にまわしても


「あれ? 高城?」


窓際の席に鞄を置こうとすると、準備室から朝霧先生が顔を出す。


閉じられた音楽室のドアを開けて中に入ると、本当に静かだった。


ここは、あたしともう1人しか居ない。


「ここに居ていいですか。……1時間くらい」

「ん? いいけど、え? 勉強? 試験終わったばっかりなのに?」

「……しませんよ、勉強なんて」


ガタンと椅子を引いて腰を下ろすと、朝霧先生は「ふぅん?」と納得いかなそうな声を出す。


机に置いた鞄を腕で包みこんで、それを枕代わりにした。枕にしては硬すぎたけど、周りの音が静かだから気にしない事にする。


「わっ、何その傷!」


閉じかけた瞼を開けて、感じた気配に勢いよく体を起こした。


「……」

「手、どうしたの」


いつの間にか朝霧先生が近寄っていて、咄嗟にカーディガンの裾で隠したあたしの手を見ている。


「……別に、何でも……」

「消毒した? ばんそうこ貼ってあげるから、おいで」


人の話を聞かずに早々と準備室に戻る朝霧先生の背中に、思わず溜め息が出る。


絆創膏って、大した傷じゃないのに……。


「高城ー? 逃げてもダメですよー」


朝霧先生の声だけが準備室から聞こえて、あたしは導かれるようにフラリと立ち上がった。



誰が消毒怖くて逃げるか。


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