世界を敵にまわしても
……いないし。
音楽室へ入ると、珍しく先生の姿がなかった。
担任代理でやらなきゃいけない事でもあるのかな。
職員室にでもいるんだろうと思って、窓際の1番前の机に鞄を置く。そのまま机に浅く腰掛けて、窓の外を眺めた。
「……あ」
窓から見える校庭に思わず腰を上げて、カラカラと控えめな音を立てながらドアを開ける。
まだ水色の空と、校庭で部活に励む生徒の声。
向かい合うA棟の校舎では、時折廊下を生徒や先生が歩いている。
それらをゆっくりと眺めながら、あたしはある一点の場所で視線を止めた。
……この辺だったよね。
昨日、あたしが校舎を見上げた時に先生が立っていた場所。
3階のベランダから外のロータリーに目を凝らして見るけど、校門を出ようとする生徒は振り向くはずもなく敷地内から出て行く。
……顔が見えなくはなさそうだけど、あたしもよく振り向いたな。
少し錆びた手すりに肘をついて、ぼんやりと行き交う生徒たちを眺めた。
完全な暇潰しではあったけど、耳に入る声や音がうるさく感じないのは放課後だからだろうか。
……ここが、特別なのかも。
あたしの頭の中にはもう、図書室という選択肢はなかった。
静かな場所を求めるという気持ちより、音楽室に行きたいという気持ちの方が強い気さえする。