世界を敵にまわしても
「ふけってるの?」
「……」
斜め後ろから聞こえた声にゆっくりと振り向くと、先生がドアから顔を出していた。
「何か言いました?」
「物想いに耽ってるなぁと思って」
「あぁ、別に……」
「ふぅん?」
首を傾げてから、あたしがいる事に何の質問もせずに準備室に向かう先生。
あたしはもう一度ロータリーを見下ろしてから、先生の後を追った。
「先生」
「何でしょう」
……やっぱりどこか違うんだよな。教室とか晴とかの前での先生と、今の先生。
開け放たれた準備室のドアに寄り掛かりながら、机の上を漁る先生を見つめる。
「昨日、あたしの事見えたんですか?」
「ん? ……あぁ、振り向いたからビックリした」
椅子に座らず机の上を整理する先生は、思い出したようにあたしに微笑みを向けた。
「気を付けてお帰りーって見てたから、伝わったのかと思った」
あ、何か……また胸の奥がむずがゆい。
「……念力ですか」
「テレパシーって言おうよ!」
フハッと笑う先生は子供みたいで、手を伸ばしたら届きそうな感じがした。
……あと腕が3倍の長さにならなきゃ普通に届かないけど。
あぁでも、そういうことか。