世界を敵にまわしても
「あ、目覚ましが、壊れてて……」
ヤバい。そう思ったのに、苦手だった母の視線は冷たさを含んでいなかった。
「知ってるわよ。いいから、早く準備なさい」
どこか呆れてるような口調ではあったものの、怒られなかったことに面食らう。
罵声でも浴びせられるかと思ったのに、母はあたしの後方を一瞬見てからドアを閉めた。
……知ってたって、何で……。
母が見た先に何かあったかと振り返ると、特別変わった様子はない。
ただあるのは机と、その上にある出しっぱなしの問題集が数冊。
「……起こしに来た?」
まさか。いつから自力で起きるようになったのか覚えてないのに。いきなり母がそんなことするはずがない。
「……」
降りてこないから、部屋に来たとして。例えば机の問題集を見たとしたら。
……いや、あたしだったら普通に起こすけど。
目覚ましが壊れてる事に気付いて、でも起こさなかったとしたら。それは、何て言うか。まだもう少し、寝かせてあげようとか。
ものすごく都合良く考えたら。
夜遅くまで、頑張ったんだな、とか……。
「……8時過ぎてるじゃん」
携帯を開いて、画面の端に小さく表示された時間に苦笑してしまう。
再び分を刻んだ表示がジワリとぼやけて、消えた。