CHANCE 1 (前編)  =YOUTH=
 



右手で拳を作り、腰まで脇を締めながらグっと引いて、左手で手刀を作って、目の前で構えるファイティングポーズを取った。


そして、キム氏をグィッと睨み付けると同時に、一気に間合いを詰めながら、右の正拳中段突きを打ち込んだ。


そして、キム氏の鼻先5mm手前で拳を寸止めにした。

その間、僅か0.5秒程くらいかな!


一瞬の出来事に、何が起きたのかも判らず、呆然と立ち尽くすキム氏が、それから現実を把握するまでには、5秒程を要した。


そのまま足の力が抜けたのだろうか、真っ青な顔をしたまま、地面に尻餅をついていた。


「まだやりますか?

言ったでしょう。

俺、テコンドーの有段者だから。」


『わ……わかった。

もうあんたには近づかねぇ。』


「そんな事言わずに、今からちょっと付き合って貰えるかな?

すぐそこだから。」


『エッ……、どこに?』


「そこのジャージャー麺屋さん。」


『どうしてさ!?』


「キム氏、頭悪いねぇ~!

どうしてって、腹減ったからに決まってるじゃん。

一緒にジャージャー麺食おうぜ。」


『何でそうなるの?

さっきまで、俺はあんたを痛め付けようとしてたんだぜ。

その俺とあんたが、どうして一緒にジャージャー麺を食わなきゃいけないんだよ。

まだ俺に何かしようと思ってるのか!?』


「別に。

ただ一緒にジャージャー麺を食うだけだよ!

あんたを見てると、そんなに悪人にも見えないし、見たところ年も俺とさほど変わらないから。

行くよ!」


と言って、へたり込んでいるキム氏を引っ張り起こし、そのまま10m先に在るジャージャー麺屋さんに入って行った。


「キム氏、名前何て言うの?」


『言いたくねぇ!』


「俺は、高 長寿(コ チャンス)って言って、在日韓国人だ!

来月20才になるんだけど、キム氏は年幾つ?」


『俺も、来月の8日で20才になる。』


って、一体俺は、ジャージャー麺屋さんまで連れて来られて、何を言ってるんだよ。


こいつ、チャンスって言ってたけど、何で俺をここに連れて来たんだろ!?


「7月8日で20才か!

俺は、7月7日生まれだから、俺の方が1日アニキだな。

で、何で名前を言いたく無いんだ!?」


『……、笑うから。』


「笑わないさ。」

 
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