CHANCE 1 (前編)  =YOUTH=
韓国サイドの本社はと言えば、日本支社の倍以上の規模で、アボジ(親父)のタレント達の中で第一線で活躍しているのはゆうに100名を越え、国内でも2番目に大きなプロダクションである。

本社には衛生課(ウィセンカ)と言う部署があり、それが日本支社の美容課にあたる。

日本支社の営業課はかなりの人数で、いくつもの部署に細分化されている。

ライブハウスや貸しスタジオで働いているのは、この部署のスタッフ達である。

入社してすぐは、研修期間として1年間ライブハウスや貸しスタジオで働いて貰うことになっている。

その間に適性を調べて、各部署への配属となるのだ。

タレントマネージャーも営業課で、花形の職場でもあるが、仕事を取って来る事が出来ないとなれないので、1年の研修期間後、次の年の営業成績が悪いと、またライブハウスや貸しスタジオへ逆戻りである。

厳しいようだが、そうしなければ大事なタレント達を任せられないのだ。

その中で桧山さんは、トップの営業成績の上、無遅刻・無欠勤、音楽にもファッションにも明るく、その上長身のイケメンなのに…

残念ながら恋をする時間が無い。

早くいい人が見付かれば良いのだが、本人はさほど気にしていないようだ。

以前、俺は桧山さんに聞いたことがあったが、

『恋は、いずれ時期が来れば自然とどうにかなるもんだよ。』

「一人は寂しく無いですか?」

『今は仕事が楽しいからね!』

と言って笑いながら、俺の肩をポンポンと軽く叩き答えてくれた事があった。


~♪~♪~♪~♪~

8月もいよいよ残り1日になり、今日は久しぶりに実家に戻ってアボジ(親父)やオモニ(お袋)、空(妹のハヌル)の4人で食事に出掛けた。

たまには寿司でもと、銀座の高級寿司屋さんに来ている。

ここの大将は、親父の知り合いで、19年前に日本に来たとき、知人の音楽プロデューサーに連れて来て貰ったのがきっかけで、その後会社が大きくなって、漸く自分で稼いだお金で食べに来れる様になると、たまに社員を連れて来ているそうだ。

俺は小さい頃、良く連れて来て貰ったが、ここに来るのは実に10年ぶりくらいである。

『久しぶりですね。

君はもしかして、チャンス君かな?ずいぶん大きくなったね!』

「はい。お久しぶりです。10年ぶりですよね!?」

懐かしい話をしながら、楽しい一時を過ごした。
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