自由のギフト

それからたかしの真似をして同じようにあゆみの背中を小さな手で撫ではじめた。
彼女は止まらない涙とその音を押し殺そうと歯をくいしばっていた。
大家さんもただ黙って座ってはいたが、とても優しい顔をしていた。彼女たちの話しを見守るみたいに。
一方僕はこの状況が堪らなくなってきて｢たかし君が守ればいい｣とこの時まるでの正論をいいかけると今度も僕が言うより先に消えそうな声でたかしが話しはじめた。
｢女なんです。｣
つぶやくように悲しい顔して笑って言った。
｢中身は女なんです。これ知ってんのあゆみだけで、両親も知りません。
テレビ何かで知っているとは思いますけど・・・。
僕も体と心の性別が違うんです。｣
その時初めて聞いたたかしの声は見た目と変わらない高い声をしていた。
たかしはあゆみの背中を撫でながら、彼女をさとすように続けた。
｢僕はずっとあゆみに守れているんです。
必死に男の子のふりをしてごまかしていても、どこか違うんでしょうね。
女の子の中にも入れず男の子の中にも上手く溶けこめない。
いつもあゆみのそばにいて、いつもたよりっきりで。｣
淋しい声悲しい声
｢今日もそうだったんです。
さっきの相手は同じ中学だった同級生なんです、高校に上がって顔を合わせなくなってからも、偶然出会ったりするとお金とられたりしていて、抵抗すると殴られて、それでもあゆみはむかっていって・・・。
自分が殴られるより、あゆみが殴られた時の方が怖くて、何もする事ができなかった。｣
たかしが言葉を切る。
今度も言葉が何もでてこなかった。
この二人には僕にはとてもはかりしれない悩みを抱えている、僕が言葉をはさめる事ではなかった。
ただ話しを聞く事で少しでも楽になるならと、そう願う事しかできないでいた。
｢ご両親に話してみたら、今よりはマシなんじゃないの。｣
大家さんの声が静かにたかしに届く。