レモンドロップス。
「ごめんなさいね、バタバタしちゃってて。」
しばらくすると、おばあさんは手ぶらで戻ってきて、あたしの向かいの席に腰掛けた。
「いえ・・・。」
一瞬の沈黙。
その時、あたしたち以外誰もいない待合室に緊張感が走った気がした。
「陽斗は今朝、意識が戻ったわよ。」
「ほんとですか?」
おばあさんはうなずくと、
「意識ははっきりしてるし、脳にも損傷はないって担当の先生が。」
「良かった・・・。」
先走っていやな想像ばかりしていたあたしは思わず大きくため息をついた。
そんなあたしの様子を少し切なそうに眺めているおばあさんは、
「彩香さん、陽斗とは本当に仲良しなのね。」
「はい。同じ学校ですけど、今年初めて同じクラスになったんです。それから仲良くなって・・・。」
どうしよ、こんな時、自分たちのことをなんて説明したらいいんだろう?
こんな風に付き合ってますってはっきり言えばいいんだろうけど、恥ずかしくて言葉が出てこない。
でも、陽斗のおばあさんにはお見通しみたいだった。
「良かったわ。聞いてるかもしれないけどあの子、家庭環境が複雑で、わたしがずっと育ててきたでしょう。だから感情を表すのが下手でね。でもあなたとは楽しくお付き合いしてたのね。」
その言葉に思わず顔が熱くなった。
「陽斗さんはすごく優しいですし、あたしよりずっと大人だと思ってます。あたしはホントに助けられてばかりです。」
つたないあたしの言葉に、おばあさんは小さくうなずきながら真剣に聞いてくれている。
「仲良くなったきっかけも、あたしが部活のことで悩んでいた時アドバイスをくれたことなんです。部活は吹奏楽なんですけど、陽斗さんがあたしに音楽の楽しさを教えてくれて・・・。」
思わず言葉を切った。
目の前のおばあさんの顔が急に曇ったから。
「彩香さん、聞いてくれる?」
「あ、はい・・・。」
わけも分からずうなずくと、おばあさんは重たそうに口を開いた。