レモンドロップス。
陽斗の手を握ったまま、どれだけの時間が過ぎたんだろう。
気がつくと日はすっかり落ちていて、病室の外は薄闇に沈もうとしていた。
「陽斗、とにかく今はゆっくり休んで。たくさん眠ってね。」
あたしはそう言いながら、陽斗の柔らかい髪の毛をそっと撫でた。
陽斗はなんとも言えない、さみしそうな、乾いた目であたしを見つめた。
そろそろ帰るね、そう言おうとしてたけど、その目を見てしまうと、思わず動けなくなった。
陽斗は意外なほどの力であたしの手を握り、離そうとしない。
――『まだ行かないで』
そんな声が聞こえて、あたしは胸がキリキリ痛むのを感じた。
こんなにさびしそうな陽斗、見たことない。
「陽斗・・・、あたしまた明日も来るから、だから・・・」
どうしよう、帰らないわけには行かない。
でも、この冷たい病室に陽斗を残していくのが悲しくてたまらなかった。
その時、ポケットの中のお見舞いの品を思い出した。
「陽斗、あたしお見舞いを持ってきたの。まだもしかすると食べられないかもしれないけど。」
そう言いながら、花が生けられた花瓶の横に『お見舞い』を並べる。
陽斗はそれを吸い込まれるように眺めた。
レモンドロップス。
あたしたちの、大切な思い出の味だ。
「またそれかよ、って言わないでね。」
ポケットの中の最後の一粒を出して、わざと見せびらかすように、あたしはドロップを自分の口に放り込んだ。
「早く一緒に食べよう。」
陽斗は嬉しそうに、何度もうなずいた。
じんわりとした笑みが浮かんでいる。
握っていた手を離すと、今度はあたしの唇をそっと撫でた。
――『ありがとう』
あたしはゆっくり陽斗の唇にキスをした。
レモンの香りがあたしたちを包む。
ここからまたあたしたちは始めるんだ、そう信じた夜だった。