レモンドロップス。
翌日の昼休み。
秋晴れの空は薄青く透明で、どこまでも高い。
不意に、一羽の鳩が空に吸い込まれるように桜の木から飛び立つのを見た。
「彩香ちゃ~ん」
振り返ると、乾くんが中庭をのんびり歩いてくる。
「隣いい?」
「あ、うん。どうぞどうぞ。」
ちょっとビックリしながら、あたしは座っていたベンチの右側を空けた。
昨日の晩はなぜか寝つきが悪くて、午前中の授業は上の空だった。
いつもは誰かと一緒にお昼を食べるのに、今日は一人中庭のベンチでサンドイッチをかじっている。
昨日の陽斗のさびしそうな様子が目に焼きついてしまっているからかもしれない。
病室にいる間に、陽斗のさみしさがあたしの全身に染み込んでしまったようだ。
「昨日、陽斗の病院に行った?」
「うん、乾くんも?」
あたしの隣の乾くんからは、いつもの陽気な雰囲気が消えていた。
乾くんはうなずくと、
「おばさん、陽斗のばあちゃんのことだけど、おばさんから陽斗のこと聞いた。腕のことも、・・・・・・声のことも。」
あたしは何も言えなくて、ただ乾くんの横顔を見つめた。
「なんでなんだろうな、なんでこんなことになるんだろうな。せっかく俺たちの夢、叶いそうなときだったのに。」
いつか、陽斗が言っていたインディーズレーベルの関係者と会うのは今週末のはずだった。
「ホントになんでなんだろう。誰よりもあいつが、一番一生懸命に音楽してたのに、こんなの酷すぎだよ・・・。」
乾くんはいつの間にか、こぶしを固く握りしめている。
手の甲には太い血管が浮かび上がっているのが見えた。
乾くんの悔しさ、陽風のみんなの悔しさ、陽斗の悔しさを、その手が語っている気がした。