レモンドロップス。

陽斗の病室のドアの前に立つと、中から話し声がした。

陽斗のおばあさんと、陽斗の声だ。

陽斗が一人じゃないことにホッとしながらドアを開けると、2人は驚いたようにあたしを見た。


「すみません、お邪魔でしたか・・・?」

思わずそう言ってしまったくらい、ベッドサイドの椅子に座っていたおばあさんの顔は困惑した表情だった。

「いいよいいよ、こっちきて」

陽斗はすばやく笑顔に切り替えると、右手であたしを手招きした。

2,3日前に、大声を出して暴れたようには見えないくらい、明るい顔。

あんなこと、最初からなかったように思えてしまう。

でも、今までの陽斗とは何かが違う気がして仕方ない。

この違和感は何だろう?


「彩香、気づいた?」

「え?何が?」

ベッドのそばに立つと、陽斗はにやりと笑って言った。


「さっき来てたんだよ、俺の親父」


反射的に、あたしは陽斗のおばあさんの顔を見た。

おばあさんは困り果てたようにうつむいていて、その表情は分からなかった。


「ついさっきまでここにいたんだよ。彩香とはすれ違いだったのかな」

陽斗の顔は相変わらず明るい。

あたしはなんて言えばいいのか分からず、そう、と一言しか答えられなかった。

たぶん、おばあさんと同じ顔をしていただろう。


憎んでいるはずのお父さんが来たのに、なんで明るい顔してるの?


口に出せない代わりに、頭の中でぽつんと疑問が孤独に浮かんだ。

とその時、ふと思い出す。

あのサラリーマン。

渡せなかった花束。


間違いなく、あの人が陽斗のお父さんだったんだ。



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