レモンドロップス。

「陽斗のお父さん、あたし見たかも」

「ほんと?どこで?」

あたしは陽斗の顔をしっかり見た。

にらんだって言ってもいいかもしれない。

「病院の門から出て行くとこ。きれいな花束持ってたよ」


花束と聞いて、陽斗の顔が急にかげった。

空っぽの花瓶がベッド横の棚にポツンと寂しく置かれているのに、初めて気がついた。


「いるわけないじゃん、あんな花」

陽斗は声を低くして呟いた。

「何でそんなこと言うの?」

言わずもがなの問いだったのかもしれない。

思わずたじろぐくらいあたしをきつく見つめ返すと、陽斗ははっきり言った。

「あいつのせいで、おれは事故にあったんだよ」



陽斗はあたしの言葉を待たずに、唐突に言葉を続けた。

おばあさんなんて、まるでいないかのようだ。

「あの日、母さんの墓参りが終わって、おじさんたちが帰った後、俺は一人で墓に残ったんだ。なんかまだ物足りないような気がして」

おばあさんはこの話を聞いたんだろう。

両手をギュッと握り締めたまま、身動き一つしない。


「俺にとってはさ、墓参りって、母さんのことを考えたり、自分のこれまでのことを考える大事な時間なんだよね。子供の頃からそうだった」

だから、と陽斗はゴクリとつばを飲み込んだ。

「誰にも邪魔されずに、母さんの墓の前でぼうっと考えてた、それなのに気づいたら、なぜかあいつが墓の前にいたんだよ」

気のせいか、陽斗のベッドの周りだけ温度が下がったような気がした。

またあのときのような、足元からぞくぞくするような冷たさをあたしは感じて身震いした。



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