レモンドロップス。
ひと気のない、廊下の突き当たりまで来ると乾くんはやっと振り向いた。
「彩香ちゃん、大丈夫?」
「え?」
「陽斗となんかあったんでしょ」
「それは・・・」
とっさにごまかそうとしたあたしを黙らせるように、乾くんは厳しい目をしてあたしを見た。
いつもは黙ってても笑ってるような目をしてるのに、今は別人みたいに見える。
「あたしが陽斗を怒らせたから・・・、それで陽斗はいなくなったのかもしれない」
「聞かせて。俺もあいつと全然話せなくて、最後におばさんとちょこっとしか話せなかったんだ」
既に泣きそうだったあたしは、言葉を詰まらせながら必死にクリスマスの出来事を話した。
できるだけに客観的に、冷静に話そうとしたけど、うまくできたか自信がない。
乾くんは、ずっとうつむきながらあたしの話を聞いていた。
「あたしが甘えてるとか言ったから、陽斗は傷ついちゃったんだと思う。でもその時は本当に辛くて、気持ちが抑えられなかったんだ」
「あいつが突然いなくなるからよっぽどのことがあったんだろうなとは思ってたけど」
その声にはっとした。
聞いたことのないくらい低い、思い声。
乾くんは陽斗と、陽風のみんなと夢に向かって進んでいた。
いつかデビューして、自分たちの音楽を世界中に届けるのが夢だった。
一緒の夢を見てたのに、陽風の未来はいきなり絶たれてしまったんだ。
とどめをさしたのはあたしだったのかもしれない。
「・・・・・・ごめんね」
「なんで彩香ちゃんが謝るの?」
乾くんはあたしから目をそらしたままぶっきらぼうに言った。
「俺が怒ってるのはあいつだよ。何で黙って消えるんだよ。彩香ちゃんだけじゃなく俺にも気持ちをぶつけろよ」
かすかにその肩が震えている。
それを見て気がついた。
乾くんはあたしを、陽斗を怒っているんじゃない。
自分自身を怒っている。
左手の怪我を受け入れられなくて苦しんでいた陽斗を救えなかったこと。
「俺、なんだかんだ言って自分の音楽のことばっか考えてたのかも。陽斗の怪我より陽風のこれからのことを心配してた」