レモンドロップス。
「分からない?」
あたしの声に、健にぃは子どものように肩をすくめた。
「もう学年主任の谷口先生が向こうの教育委員会に引継ぎしててな。あとは向こうのテリトリーだから、簡単に教えてもらえないんだよ」
「そんな・・・」
「学校の世界は縄張り・・・じゃなかった区分けとか生徒のプライバシーとかに厳しいんだ。ごめんな」
健にぃに詰め寄ってから1週間たって、呼び出された放課後の職員室はいつもより人が少ないみたい。
大学入試の直前だからか、生徒も先生も落ち着かず動き回っている。
あたしと健にぃの周りだけが、奇妙に静かだった。
「健・・・先生が分からないんじゃしょうがないですね」
「連絡、まだ取れないか」
健にぃは言いにくそうに眉毛を下げながら聞いた。
落ち着かなさそうに、手元のペンのキャップを外したり閉めたりしている。
「はい・・・、メール送っても返ってきませんし、電話もダメで」
「そうか・・・。辛いかもしれないけど、しばらく時間おくしかないかもな」
最近では、陽斗にメールを送ることもすっかりやめていた。
一応届いているみたいだからアドレス自体は生きてるんだろうけど、何の反応もないこと
の空しさには耐えられなかった。
「焦って忘れようとしたりするなよ」
健にぃの言葉にドキッとする。
「お前も分かりやすいやつだなあ」
アドレスを消して、着信履歴も保護メールも全部消して楽になりたい。
いっそ忘れたい。
何度も衝動的にそうしようとしたこと、健にぃにはバレバレみたいだ。
「分かりやすいやつですいません」
「そうそう、そういう不満そうな顔が彩香らしい」
満足そうに微笑む健にぃ。
なんか悔しい、でもちょっと気持ちが楽になった。
「無理して断ち切ることないんだよ」