レモンドロップス。


と、陽斗が言った。

「俺、会ったんだよ」

「え?」

「親父に」


驚いて陽斗を見ると、小さくうなずきながら陽斗は言葉を続けた。


「ついこの間。こっちに戻ってきたついでに連絡して会いに行ってきたんだ」

「ほんとに・・・?でも、大丈夫だったの?」

「俺のほうはね。でも向こうは大丈夫じゃなかったかも」


お父さんの話は、陽斗にとってタブーのはずだった。

あたしと陽斗がぶつかったした原因もそう。

なのに今、こうして静かにお父さんについて語る陽斗を見るなんて、信じられなかった。


「親父と2人きりで向かい合って話すなんて、一生しないつもりだった。いつか彩香が言ってたとおり、逃げてたんだよな、俺」

「あの時はごめん!あたしっ・・・」

「いいんだ、聞いてほしい」

あたしの言葉をさえぎって、陽斗は続けた。


「もう逃げない、それだけ親父に言いたかったんだ。仲良くなるとか許すとか、そんなことは考えられないけど、とりあえず親父と向かい合いたいって」


その言葉に嘘がないことは、陽斗の静かな表情と、噛み締めるような話し方から分かった。

あの冬の日に見た、倉本さんの小さな後ろ姿がふと頭に浮かぶ。


< 266 / 285 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop