レモンドロップス。
「竹村とは、転校してしばらくしてから電話で話したんだ」
「うそ?あたしには連絡先が分からないって言ってたよ?」
陽斗は困ったようにうつむいた。
「いや・・・、ごめん。それ嘘なんだ。俺が誰にも連絡先を教えないでくれって頼んだから、そう言ったんだと思う」
「そうだったの・・・」
冷静に考えたら、先生なのに転校した先が分からないなんて、そんなことありえなかった。
あたしが問い詰めた時の健にぃの言葉がよみがえる。
『力になれなくてごめんな』
すまなそうな表情の裏に、そんな事情があったなんて・・・。
「彩香が俺に会いたがってるってことも、その時聞いたんだけど、俺には彩香と会うことまで考える余裕無かった」
針で刺されたようにちくんと胸が痛んだ。
帰ってくれ、そう言い放った陽斗の顔を思い出す。
「あの時は、とにかく自分の身に起こったこと全てを忘れたくてこの街から逃げ出したから、正直電話も迷惑だった。だから竹村と話したのはそれが最後だったんだ」
沸き立つ怒りの中にいた陽斗、あの時の姿を思えばその気持ちは理解できた。
陽斗はやっぱり転院という名目で、あたしから、自分の過去から逃れようとしていたんだ。
今更ながら、その事実はあたしの胸にズシンと重たくのしかかった。
「じゃあ、この手紙は?」
「それは、3月に入ってしばらくしてから突然届いたんだ。まさかあいつから手紙が来るなんて思っていなかったからビックリした」
そう言いながらゆったり笑う陽斗。
その笑顔を見ると、さっきと違う痛みが体を走る。
「読んでいいよ、その手紙」
「いいの?」
ちょっとビックリして聞くと、陽斗はうんと小さくうなずいた。
「なんとなく、竹村も彩香に読まれること分かってるような気がするんだ」
ドキドキしながら便箋を開くと、健にぃの字が目の前いっぱいに広がった。