レモンドロップス。


「彩香、これから菜の花見に行こうか」

 ひとしきり笑った後、陽斗はそう言った。

 「菜の花?」

 「うん、来る途中に菜の花畑を見つけたんだ。ちょっと歩くけど良かったら・・・」

 「行きたいな。陽斗はそういうところ、変わらないね」
 

  春の桜、秋のコスモス、陽斗とたくさんの花を見たことを思い出した。  

  きっとこれから2人で歩いていく道の途中で、いくつもの花を見るんだろう。

 
 
 ふたりでゆっくりと坂道を下りはじめた。  
 
 あたしたちの足もとには、春色の街が待っている。


 陽斗は右手にギターケースを持って、しっかりと地面を踏みしめて歩いていく。

 あんな事故が起きたなんて思えないようなその姿に、あたしの知らない陽斗の努力を感じた。

 そっと陽斗の左手に自分の右手をつないでみると、陽斗はまた顔をくしゃっとさせた。 


 とその時、ブーンブーンブーン、陽斗の携帯が鳴った。

 「おっと」

 陽斗はギターケースを地面に下ろして右手でポケットを探る。

 「いいよ、陽斗。あたしがギター持つ」

 「ありがと彩香」

 右手で携帯を取り出した陽斗は、

 「もしもし・・・、おう、久しぶり。うん、大丈夫だよ」

 おずおずと話し出した。


 話の内容や陽斗の様子から、相手はすぐに分かった。

 乾くんだ。

 陽斗の顔に浮かんでいるのは、黙っていなくなってしまったことに対する罪悪感と、バンドへの懐かしさ。

 嬉しいような、気まずいような表情が入り混じっている。


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