天翔る奇跡たち
年齢は! 年上の女性を「おねーちゃん」だの「姉御」などというのもアウト。「お姉様」はOK。
まあ、それ以来ドロップスのかみ癖とすぐ茂みに入って迷子になるのを矯正せねばならなかった。立ってるときはそのままかがみ込んだりしないように、ガナッシュとグリフが左右からその手を握る。
……その姿はまるで、子連れのカップルのよう。ここぞとばかり笑ったらガナッシュが二度とやらないとか言って、以来、彼女の子守はしばらくあたしの役目に……とほほ。
名前は、と言うと、首を振って言いたがらない。だから、水浴させてるうちに洋服や持ち物に手がかりが無いかと探ってみた。けど、彼女の所持品など微々たるものだった。古い麻袋に首と手脚が出るようになってる貫頭衣に、文字らしきものを見つけて、グリフに聞いてみた。
「グリフぅ、これなんて読める?」
「『DOROPS』とかすかに読める」
うんうんとうなずいて、あたしはもう一回聞いてみた。
「だよねえ、これ、名前だと思う?」
さあ、と二人で首をひねっていると、後ろで歯を磨きながら、ガナッシュが、
「落ちこぼれ、……か。ぺっ。どこにだっているもんだ」
気安く肩に手を置くので、あたしは思わずガナッシュの頬を張っていた。
「ガナッシュ、ヒドイよ! あたしはともかく、あの子がどんな思いをしてきたと思うの? あの傷、見たでしょう?」