天使と野獣
「ここか。」
「はい。3階の一番端がうちで、その隣です。」
京介は直道の案内で、
同じような建物が並んでいる、18号棟と書かれたところに立っている。
「どうします。呼んでも…
多分出てこないと思います。」
「そうか。じゃあ、訪ねてみよう。
悪かったな。もう良いぞ。」
そう言って京介は目に付いた階段を登っている。
エレベーターもあるが、3階なら階段だろう。
「京介さん、一人ではだめでしょう。
この時間は、まだおばさんはパートだから…
僕も行きます。
僕がいたほうが和美だって… 」
そんな京介を見て、直道は慌てた。
うまくは言えないが、
京介に和美一人を会わせる事に、
戸惑いを感じた、というところか。
「そうか。じゃあ、頼む。」
ドアの前に立ち、ブザーを押したが反応はなかった。
が、京介は動こうとはしない。
それで直道が声をかけた。
この建物は鉄筋コンクリート、3LDKの棟だが、
外廊下で立ち話をしていると、
その声が良く聞こえている、と言う事は知っていた。
「和美、隣の直道だよ。
いるだろ。ちょっと話がしたいんだ。
東条京介と言う三年生も一緒なんだ。」
中にいることは分かっている。
それで直道は、京介の手前、
気を使って、声を張り上げて和美の名前を呼んだ。
間取りも同じ3LDK,
和美がどの部屋にいるのかも分かっている直道だ。
しばらくして…
ドアを開けたのは弟の光彦だった。
中学二年生、
度のきつそうなメガネをしているが、
顔そのものは幼さが残る。
しかし、泣いていたのか、
まぶたが腫れ、涙の痕が残っている。
それにしても顔色が悪い。
「なんだ、光彦もいたのか。
今日は半日か。 お前、風でも引いたのか。
顔色が悪いぞ。」
直道も怪訝そうな顔をして、
和美の弟・光彦に声をかけている。
京介は無表情の顔をしているだけだ。