天使と野獣
「ああ、確かに吉岡を殺した増田は、
黒幕たちに殺された。
報道にもあったように、犯人たちは全員逮捕だ。
しかし、俺はまだ吉岡の意志をついでいない。
あいつが増田を呼び出したのは…
俺は、吉岡が教室で桜木か外岡のチーズを拾い、
二人から理由を聞き、
男気を出した、と思っていた。
その事を確認しようとしていた矢先に、
あいつ等は殺された。」
そのことは覚えている、と言う様な顔をして
直道は京介を見ている。
あの頃は京介の助手になったような気分で何となく嬉しかった。
しかし、何故今頃…
「俺は、あの場にこの女がいたことが引っかかっていた。」
和美の名前を覚えないのか、
京介は和美を前にして、
この女、と言う言葉を出している。
違和感があったが直道は、
いつもの事だ、と思いなおした。
「お前、あいつをかばって、
病人の振りをしているのか。
吉岡はそんなことは望んではいないぞ。
あいつも増田からチーズを買っていたのか。
お前が相談したのだな。
だから、あの時お前はすごく怯えていた。
事の成り行きに、
恐怖のどん底につき落とされた。
だから確かにいっときは精神を壊したかも知れん。」
京介の言葉に…
直道はまだ理解に苦しむところがあったが、
和美は次第に涙を浮かべ…
肩を震わせて泣き始めた。
そう、まさに、それまで堪えていた涙を
いっきに出そうとしているような泣き方だ。
そんな和美を見て直道は驚くしかなかったが、
その後の京介の行為に…
もっと驚いた。
まさに開いた口がふさがらない。
ぽっかり口をあけて…
自分の隣にいる京介を見ている。