泥もしたたるいい女


「…ちょっとこれ、持ってて」

そんな私の態度に怒るでも戸惑うでもなく、男は傘を差し出した。

傘の柄を持つ手は男らしくゴツゴツしてて長い指にお洒落な指輪がいくつかついていた。

その手が不意に私の手を握って傘を持たせた時、私は弾かれるように顔を上げた。


「あっ…」


見えたのは後ろ姿。細身のスーツを翻しバンへと駆けていく。

私はなんとなくぼーっとその姿を眺めていた。


体が寒くて歯の根も合わないのになぜかさっき彼が触れた手だけ熱いのに気づかないフリをしながら。
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