蜜に恋して
「えへへっ。陸の背中らくちんだーっ。」
最近見ることのなかったご機嫌な蜜の姿をこんな形で見ることになるとは、陸は正直喜んでいいものかと思案していた。
「むー…りくってばほんっとずるいんらもん」
「え?」
思わず立ち止まって顔を後ろに向けると、声色通りの急に不機嫌になった蜜の顔。
「しんちょー高くってぇ、スポーツ万能でぇ、かっこよくってぇ、オシャレでぇ、
あゆちゃんもさきちゃんもみなこちゃんもぉ、みんなみんなりくのことすきってゆうんらよー?」
(え、まさか今の蜜の本音?)
「もお〜っ、なに笑ってんのぉ?なんにも楽しくないのにっ!ばかりくぅ。」
「!!」
思わず緩んだ頬をバッチリ見られていて、文句を吐かれたのもつかの間、「外国の挨拶のまね事か?」とも思わせる
軽いキスをうっかり打ち込まれてしまった。
「えへっびっくりしたぁ?」
悪びれた様子もなく、むしろしてやったりという顔をしている蜜に、むくむくと曲がった感情が溢れてくる。
「…蜜、俺とそんなにキスしたかったの?」
あの日から、気になってたんだろ?と問い掛けると
恥ずかしそうに目を背けた。
「そんなんじゃ…」
「俺の唇、欲しくないの?」
「り、りくぅ……いじわる…ばかぁ…。」
震える睫毛に、もう欲望しか沸いて来ない。
「ね、もっかいしてみる?」
暗い夜道で、陸の目が光った。
拒絶の無は、陸にとって肯定ととる以外何者でもなかった。