蜜に恋して


今宵は満月。
星も疎らに雲の切れ間から顔を覗かせては消え、消えては現れ、まるで陸と蜜の感情を表したかのよう。




向き合った二人が二つに重なりかけた時だった。



「やっ…」



突然蜜の口から漏れた言葉。
陸は我に返り、はたと蜜を見つめた。



「…蜜?」



俯いててどんな顔してるか分からない。
こういうときは、いつもそう。俺が屈んでやんないと。



「やだっ…見ないで…」


「なんで?俺のこと、キライ?」



キライ?


うんとでも言われたらどうしようと考えたのは、言った後でのこと。


優しく下から見上げ、手では頭を撫でてやると、目が合った。
悲しい時、辛い時、下唇を噛んでしまうのが蜜の癖。




「なあ、俺とキス、嫌?」




そう聞いても首を振る蜜。

(…あー、もう!
じゃあどーすればいいってんだよ!)




陸が頭を悩ませていたところで蜜が口をひらいた。



「っよ、良くないよ…。陸は彼女いるんだから…。」



そういって、まだふわふわしてる足を踏ん張って一歩後ろに下がった。



陸には美沙ちゃんがいるのに。

頭がぼーっとする中で、私は求めちゃダメなものに手を出そうとしてた。


陸はなんだか悲しそうな顔してたけど、私はそれ以外何にも言えなかった。



そのあと陸は、「…帰ろっか。」と独り言にもとれるような小さな声で呟いて、気まずい空気になりながらも、
ふつうに歩けない私の手だけはしっかり握ってくれていて、
なんだかすごく嬉しくて、寂しかった。


< 26 / 30 >

この作品をシェア

pagetop