蜜に恋して
今宵は満月。
星も疎らに雲の切れ間から顔を覗かせては消え、消えては現れ、まるで陸と蜜の感情を表したかのよう。
向き合った二人が二つに重なりかけた時だった。
「やっ…」
突然蜜の口から漏れた言葉。
陸は我に返り、はたと蜜を見つめた。
「…蜜?」
俯いててどんな顔してるか分からない。
こういうときは、いつもそう。俺が屈んでやんないと。
「やだっ…見ないで…」
「なんで?俺のこと、キライ?」
キライ?
うんとでも言われたらどうしようと考えたのは、言った後でのこと。
優しく下から見上げ、手では頭を撫でてやると、目が合った。
悲しい時、辛い時、下唇を噛んでしまうのが蜜の癖。
「なあ、俺とキス、嫌?」
そう聞いても首を振る蜜。
(…あー、もう!
じゃあどーすればいいってんだよ!)
陸が頭を悩ませていたところで蜜が口をひらいた。
「っよ、良くないよ…。陸は彼女いるんだから…。」
そういって、まだふわふわしてる足を踏ん張って一歩後ろに下がった。
陸には美沙ちゃんがいるのに。
頭がぼーっとする中で、私は求めちゃダメなものに手を出そうとしてた。
陸はなんだか悲しそうな顔してたけど、私はそれ以外何にも言えなかった。
そのあと陸は、「…帰ろっか。」と独り言にもとれるような小さな声で呟いて、気まずい空気になりながらも、
ふつうに歩けない私の手だけはしっかり握ってくれていて、
なんだかすごく嬉しくて、寂しかった。