勿忘草

パシッ


「!!」



するといきなり腕を掴まれた。


驚いて振り返ると、眉間にシワを寄せて薄く片目を開いている総護君がいた。



「……心音?」





表情は酷く、切なさそうに私の名前を呼ぶ。



その顔にドキリとした。



ゆっくりと瞬きをして、目をこすりながら瞳を開く。



「シオン…」


ふと憫笑(びんしょう)したかと思うと、しっかりと私の顔を見据える。



「キャッ」

すると彼は掴んでいた私の腕を引っ張り、自分の顔に私の顔を近づけた。



そして心配そうな顔をして、
空いている方の手で頬に触れる。



まるで壊れ物を触れるかのように優しく、そっと。


かぁっと私の顔に熱が集まった。


「また…泣いてたのか?」


寝ていたせいか、少しかすれた声で私に問い掛けてくる。



どうやら涙の跡が残っていたらしい。



「…ちょっと…悲しい夢を見たみたいで」


心配をかけたくなかったが、彼の目を見ていたら嘘をつけなかった。


「でももう大丈夫。…どんな夢だったかあまり覚えてないから」



すごく悲しかった筈なのに…


何故かどんな夢だったのか、忘れてしまった。





心に大きな空虚感を残して。





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