勿忘草



取りあえず卵をフライパンの上で割り、目玉焼きを作ってみた。


そして棚の上で見つけた食パンをオーブンで焼き、

その間に林檎の皮を剥いて、切り分ける。






焼いているパンの香ばしい香りが、部屋中に漂った。


その香りを感じてか、眠っていた総護君が目を覚ます。



朝が弱いのか眉間に皺を寄せながら
ゆっくりと体を起こし、フラフラとこちらに向かって歩いてきた。



「すげぇ…いー匂いすんだけど…」

彼が冷蔵庫から取ったミネラルウォーターを飲みながら言う。


「ごめんなさい。お腹空いてると思って、勝手にキッチン借りて作っちゃったんだけれど…」


私がそういうと彼は切った林檎を一切れ摘み食いして言った。

「マジで…やった」



「たいしたものじゃないけれど…」


眠そうな笑顔で嬉しそうに喜ぶ彼に、少し自分が恥ずかしくなった。


目玉焼きと、切った林檎にトースト。


無理にでももっと手の込んだものにすれば良かったと、後悔する。





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