幕末異聞
「……んな?」
「一目惚れなんです!!」
混乱した楓に更に追い討ちをかけるお滝の言葉。
「……あ?」
極めつけは向かい合っているお絹の紅潮した顔。
「……な、なんやてッ?!!」
三人の視線が楓に集中する。
変な汗が楓の額を濡らす。
「あ…あのな、お絹」
未だ混乱する頭を何とか回転させる。
「は…はい!!」
少女の純粋に恋をしている目に楓は言葉を詰まらせた。
「…あんたのことは思い出した。昨日の河原町の子やろ?」
「はい!!そうです!私です!」
お絹も混乱している様子だ。
(う…)
「お絹、落ち着いて聞いてくれ」
楓はなるべくお絹がこれから述べる自分の言葉にショックを受けないように慎重に話を切り出そうとしていた。
「大丈夫です!!私、楓様の隊務が忙しいことはちゃんと理解しているつもりです!それでもやっていける自信がありますッ!」
「も…もしもし?」
お絹は楓の話をちっとも聞いてなかった。完全に自分の中で何かの話が進んでしまっているようだ。楓が唖然としている内にも、お絹の話は加速する。
「なんなら私、ここの女中として貴方を支えます!だって、いつも会いに来て頂くなんて悪いじゃないですか?!」
(妄想癖かーッ!)
話は既に楓の理解の範疇を超えている。
このお絹の妄想っぷりには外から見ている三人も開いた口が塞がらなかった。
「ちょっ…ちょ…?!」
「やっぱり妻は常に夫を影から支えるものですよね!」
「おい…」
「私がしっかりしないと「お絹!!」
(((あ、キレた)))
楓の怒気を含んだ大きな声に驚いてお絹はやっと現実の世界に戻ってきた。
「……女なんよ」
「え?」
ボソリと呟く楓の声をお絹は懸命に拾おうとした。
「うちは女やねん!」
「……へ?」
「「…え??」」
お絹・お滝・美代は、楓の言葉が意味することが理解できなかった。
なぜなら、楓の言ったことは、彼女たちにとってあってはいけない事だったからだ。
(言っちゃった)
沖田は心配そうに三人を見守る。