幕末異聞

「…なにこれ?いいのこれ?」

完全に外野に出されてしまったお滝が不満を漏らす。

「まぁまぁいいじゃないの!
そんなことよりお侍様?!」

美代は適当にお滝の言葉を流し、クルっと首を反転させた。


「…侍?私ですか?」


美代の目指す先にいたのは沖田。自分を指差して美代を見る。

「そうですよ〜貴方しかいませんわ!それより、貴方は男の方ですよね?」



「…はい?」


いくら中性的な顔をしているとはいえ、やはり身体はそれなりにしっかりしている。こんな質問をされたのは元服して以来記憶に無かった沖田は驚いて目を丸くした。


「男…ですよ?」

「よかった〜!ほら、楓さんのことがあったから一応聞いてみたんです。気を悪くしないでくださいね?
私たち、茶屋の『佐久間』っていう店で売り子やってるんですぅ!もしよろしければ、今度いらしてください!
というか来てください!」


「…はぁ」

甘いものに目が無い沖田が“茶屋”という単語に興味を示さないはずがない。だが、美代の話を聞いても沖田の反応はいまいちだった。
どうやら性別の確認をされたことが意外と心に響いたようだったようだ。

「あの、せめてお名前「美代ちゃ〜ん!お滝ちゃ〜ん!!」


沖田に対する美代の猛主張を止めたのは、楓と話していたお絹だった。
美代は渋々沖田との会話を中断し、お絹を見る。


「今度うちの店に来てくれるって楓が約束してくれたよ」

「へぇ!!よかったじゃん!これでまた会えるね」

お滝が横からお絹の肩を優しく叩いた。その言葉を聞いた美代は目を輝かせ、お絹の耳元に顔を寄せる。


「ちゃんとあのお侍様と一緒に来るように言っといてねッ!!頼んだわよ!」


((あ…美代ちゃんが別人になってる))


お絹とお滝は、目の色を変えて言う美代に顔を引き攣らせて何も言わずその場から逃げた。



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