幕末異聞
土方が屯所に向かっている頃、楓は部屋の前の縁側に座り、ぼんやり庭園を見ていた。
夕飯も腹いっぱい食べ、眠気が襲う。
――……ん…………たん…たん、たん
人の足音が聞こえる。
楓の眠気は一気に飛び、薄暗い廊下に目をやる。
こんな夜に離れにやって来る人間は大体見当がついている。
「よ!元気だったか!?」
廊下から聞こえる声は楓が予測していた人物ではなかった。
「へ…平助?!!」
「おぉ!久しぶりだなぁ!!
よかった〜。傷治ってる!」
楓の前に現れたのは藤堂平助であった。
藤堂は、隊士募集のために今まで江戸に下ってついさっき帰ってきたばかりだ。
「傷なんてとうの昔に治っとるわ。アホちん平助」
「アホちんって…。
あ〜あ、せっかく入隊祝いの江戸土産買ってきてやったのになぁ」
藤堂の言葉に楓が反応した。
「ほ…ホンマか?!
ホンマに土産買ってきてくれたんか?!」
「ほんとだよ〜?でもアホちんって言われたからな〜…」
「平助様――っ!!この度のご無礼をお許しくださいませー!」
「馬鹿ッ!声がでかい!俺がお前のこといじめてるみたいに見えるだろ?!」
「藤堂平助様―!!この赤城楓、あなた様の旅の疲れを癒そうと必死に努力したまででございますーー「あーっ!!!やめろ!!何わけわかんねー一人芝居してるんだよ!わかったわかったからホントやめろって!!」
「早う出し!!」
「お前は鬼かッ!!!」
楓は藤堂の慌てっぷりを見ていかにも楽しそうな顔をしていた。
「仕方ないなぁ…。ちょっと待ってろよ」
納得いかないというような顔をしながら藤堂は着物の袖に手を入れてゴソゴソ探る。