アンダンティーノ ―恋する旋律 (短編)
「ちょ、ちょっと――」

 男性で、しかもユマより明らかに年上なのに、
テツロウは何も言わず、ただ泣き続ける。

 ユマはその時になって、ようやく
あることに思い当たった。

 他の人には彼の姿は見えないのだ。

 もちろん声も聞こえない。

 ここにはユマ以外、彼の望みとやら
をかなえられる人間はいなかった。

 だからテツロウは――。

 もちろん彼とハルキとは別人だ。

 それでも似た顔でこんなふうに
泣かれるのはたまらない。

「わかった。わかったってば。

 ねえ、泣かないで」

 答えはない。

「やってみる。あなたのお願いごと
 ……やってみるから」
 
「えっ?」

「約束する。

 できるかどうわからない けど」
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