幕末異聞―弐―

「何だかんだで、ずっと近くに居ましたからね。嫌でも目に入っちゃうもんですよ」

「それだけで…見抜いたんですか?」

「えへへ。すごいでしょう!」

額を一掻きして誇らしげに胸を張っている沖田に唖然とする山崎。

「沖田組長は…赤城に今の力量を思い知らせたくて傷を負わせたんですか?」

山崎はいよいよ核心に迫る。質問を投げかけられた沖田の方は、特に表情を変えるわけでもなく、口は変わらず弧を描いていた。

「はい」

「何の為に?沖田組長から見たら以前より劣っているかもしれませんが、隊務をこなすのには全く問題ないのに…」

「くくっ!そこまでが大方当たっているの大方の部分なんですよ」

「?」

「あっはははは!!そんな難しい顔しないでくださいよ!別にその“何の為に”の部分はそんなに重要じゃないですから解らなくてもいいんです。
今回あそこまで傷を負わせたのは、私に勝てないようでは戦に出てもすぐに死にますよっていうただの忠告ですから」

腹を抱えて大笑いする沖田に山崎の頭は益々混乱していく。

「さて、私はそろそろ失礼します。夜の見回りの当番なもので!また今度甘味でも食べながらゆっくり話しましょう!」

うんっと両手を頭上高く組んで、伸びをした沖田は、山崎に背を向け不安定な河川敷を高下駄で歩き出した。



「あ…沖田組長!!」


思考が停止していた山崎が、カラカラと鳴る下駄の軽快な音で気を取り戻す。

「?」

焦ったような声に、沖田は体を反転させた。


「これはまだ上層部しか知らない話なんですが、赤城楓に除隊命令が下るようです」

(自ら情報を漏洩するなんて監察方として失格だ)

自嘲気味に笑った山崎だが、どうしても沖田の反応が見たかった。山崎は一瞬たりとも沖田の表情の変化を見逃さんと、じっと顔を見つめる。
それに気づいているのかいないのかは解らないが、沖田の目線がゆっくりと山崎の目とかち合う。


「そうですか。そろそろだと思ってました」


凪いだ声でそれだけを言い、今までにないくらい柔らかい、安堵を滲ませた笑顔を見せた。

沖田のその笑顔は、山崎が入隊してから一度も見たことのない顔だった。



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