幕末異聞―弐―
「…もし、うちが除隊したくない言うたら、あんたは援護してくれるか?総司」
まるで暗闇に話しかけられているような不思議な感覚が沖田を包む。当然、その質問をした楓の顔など見えるはずもなく、表情から意図を見出すことはできない。
「しませんね」
「何故?」
沖田が間髪入れずに答えてくると予想していた楓は、即座に用意していた次の質問を投げかける。
「貴方なら昨日の勝負の意味が解るはず。貴方の体は、左腕はもう戦いには使えない。それが解っていて敢えて戦場に出る必要なんてないじゃないですか」
「うちは新撰組に命を懸けると自らの意思で誓った。それがどういう事かあんたが一番わかるやろ?」
「それは……」
台本があるかのような問答に沖田の思考が付いていけず、言葉を詰まらせた。
「教えてやろうか」
「…え?」
ザッっと突然吹き荒れた風に、二つの提灯の火は攫われた。
「あんたは、自分のせいでうちの左腕がよう使えんようになったと思ってるんや」
「…」
「だから、うちが死んだ時は少なからず自分に責任を感じる」
「…」
――ドクンッ…ドクン…
沖田は体の全てが心臓のような錯覚に陥っていた。寒いわけでもないのに歯を食い縛ってないと震えが起きる。無意識に握っていた刀の柄がギリギリと窮屈な音を立てた。
「あんたは結局自分のせいで人が死ぬ事が、嫌なんやっ!!自分の落ち度を認めたくないんやろ?!!」
「違うっ!!!」
沖田の叫びに応えるように分厚い雲の切れ間から再び月が現れ、二人を照らし出した。