幕末異聞―弐―
八木邸から仏光寺通りを南に下る人影が二つ。
煌々と灯る提灯を揺らしながら早足で歩いていく。
「こんな時間に一体どこに行くというんですか?」
「うっさい。黙って歩け」
前を歩くのは肩の下くらまである髪を無造作に揺らして歩く楓。そのすぐ後ろに、持っている提灯を振り回す沖田がついていた。
「うっさいって…。荷造りとかはもう済んだんですか?」
「ああ。半刻もかからなかったわ」
「そういえば…最初から荷物なんて持ってませんでしたもんね」
「「…」」
祇園や堀川とは違い、この仏光寺通周辺は夜になると人通りは殆ど無くなる。今も、提灯を持っていなければ足元すら危ういくらい濃い闇に包まれているのだ。
こんな夜に、見回りか夜遊びに出かける以外の目的でこの通を歩く事などほとんどない沖田は、昼間とは別人の顔つきをした通をきょろきょろと見回した。
「着いたで」
ぴたっと急に止まった楓にあわやぶつかりそうになりながら、沖田は足を止めた。
「…なんだ。壬生寺じゃないですか」
楓が目指していたのは、二人が慣れ親しんだ場所、壬生寺だった。
流石に夜とあって境内で遊ぶ子供の姿も、参拝者の姿も見当たらない。
――ジャリ…ジャリ…
と小石を踏み締め、楓と沖田は境内の中央に立った。
二つの立派な石灯籠の間に聳える本堂が二人を見守る中、楓は体を沖田に向かい合わせ、この日初めて対峙する恰好となった。
さっきまで顔を覗かせていた月が、いつの間にか雲の向こうに隠れてしまっていた。頼りは不自然に間隔を空けた二つの提灯。その一つがスッと地面に置かれる。