幕末異聞―弐―
「…!」
――いつか聞いた似たような言葉。…あれは確か、芹沢鴨だ。
“死んで残す証もある”
いるはずもないのに確かに聞こえた芹沢の懐かしい声。
(…はっ。武士って奴はどいつもこいつも死にたがりか)
眉を顰め俯いた楓の様子を伺おうと、少し屈んだ沖田を思いきり突き飛ばし、楓は元の位置に跳ね返った。
「な…っ!」
「総司。随分と無い頭使って色々考えたようやけどな、無駄やったで!」
「は?」
突き飛ばされた胸を摩りながら疑問の声を上げる沖田。
「新撰組にいても何処にいてもうちは絶対に死なんからな!絶対に!」
気が付けば、楓の表情からは怒りが消え、普段の憎たらしい笑みを浮かべている。
「そんな…絶対なんてあるわけない!自信過剰もいい加減にしないと本当に「じゃあ、試してみるか?」
「!?」
その言葉を待っていたと言わんばかりに口端を上げて、楓はにやりと笑う。
「今日はこの右腕と大刀であんたに勝つ」
――チャッ
と左手で鯉口をきる音が境内に響く。
「馬鹿言わないでくださいっ!真剣じゃ昨日とはわけが違う!」
「それがええんやないか。あんた真剣だと、自分を見失うほど高揚する性質やろ?」
「…っ」
「それでこそ意味があるんや。生温いチャンバラなんて御免やからな」
楓は右手を柄に添え抜刀の構えをとり、直立して動けないでいる沖田を睨みつける。
「抜け。この左腕の傷の貸し、これでチャラにしたるわ」
「!」
沖田の右手がピクリと反応する。腰に挿した愛刀に一度目をやり小さく頷くと、沖田も抜刀の姿勢に移った。
「うちが勝ったら、あんたが土下座でも何でもして除隊の命を撤回させろ」
「いいでしょう。私が勝ったら大人しく除隊してくださいね」
月明かりだけが頼りの過酷な状況で、二人は静かに時を待つ。
((勝ち負け云々の前に、殺してしまうかもしれない))
刀に手を掛けた瞬間、二人は二匹の獣となり、獲物を見据えて目をギラギラと光らせていた。