幕末異聞―弐―
その日運ばれてきた報告書はその日の内に片付ける。
それが多忙な副長・土方の方針だった。そして、新撰組発足から今日に至るまでその方針に従順に従ってきた。
しかし、今日はその偉大な記録を途切れさせてしまいそうだ。
土方はいつものように文机に向かい、いつものように手に半紙を持っている。
一見、普段と変わらないように見えるが、副長室に入室した山崎は目を大げさに瞬かせた。
「…土方副長」
「…ああ?」
「恐れながら、言わせていただきます。一刻(二時間)前と少しも変わっていないのですが…」
山崎が今日最初にこの部屋に入ったのは一刻ほど前。その時も、土方はこうして半紙を手に持って座っていた。見たところ、机に聳え立つ書類の山は一刻前と変わっておらず、土方自身も一寸のずれもなく同じ体勢である。
つまり、土方はそれほど長文ではない同じ書類を一刻かけて読んでいることになるのだ。
「読む気になれねぇ」
舌打ちと同時に持っていた半紙を放り、文机に突っ伏す土方。彼にしては珍しい行動だ。
「赤城が気になりますか?」
「あ?んなわけねーだろ。ただ疲れただけだ」
三十近くのいい大人がまるで子供のように臍を曲げている。山崎は土方に聞こえないように、小さな溜息をついた。
「赤城の事で知らせるか知らせないか迷うくらい些細な出来事があったのですが…相当お疲れのようなので今夜は失礼する事にします」
「何…?」
ムクっと逞しい背中が再び持ち上げられる。