幕末異聞―弐―
――ジャジャッ
激しい砂利の擦れる音が壬生寺に響く。
(どうなってるんだ?!)
目の前で半身以上もある刀を軽々と右手で持ち上げている楓に、沖田は狼狽していた。
(昨日とは別人じゃないか!)
「どうした?足が止まってんで?」
若干の呼吸の乱れはあるが、まだまだ余裕の笑みを浮かべる楓を沖田は睨みつけた。
「ふふふ。…一体どんなからくりを使ったらそんな別人になれるんですかね?」
――キイィィィン…
言い終わると同時に電光石火の如く、沖田との間合いを詰める楓。
鍛え上げられた鉄と鉄がぶつかり合う幻想的な音が空気を波打たせる。
「くく、別人か。そうやな、命が懸かってる事が昨日と大きく違うところや」
――キンッ!キンッ!!
「いくらそこの差があっても、利き手の不利は埋められないはず…」
――カシャッ!!
一撃放てば引き下がり、また打っては素早く移動する。広い境内を大いに活用した楓の戦い方に沖田は苦戦していた。
月のほとんどが雲に隠れてしまっている今、砂利を蹴る音だけを頼りに楓の動行を探る。しかし、それだけでは楓の剣をかわせない。
(どんどん早くなっている…)
――キンッ!
動き回る楓に対し、沖田は殆ど動かないで楓の攻撃を凌ぐ。下手に動けば、楓に背中をとられてしまい兼ねないからだ。
(…認めたくないけど、劣勢か)
――シュッ!!
「!!」
一瞬、意識を楓から離してしまった沖田。その隙を逃す楓ではない。
「余所見しとったら死ぬで?」
「…ふ。まるでカマイタチですね」
嗅ぎ慣れた鉄の匂いが沖田の鼻を刺激する。
刀を握る左手の甲から滴り落ちる赤い雫が砂利を濡らす。