幕末異聞―弐―
(あと一撃で!)
(この一打で!)
夜のはずなのに、二人は正午の太陽に照らされているかのような眩しさに包まれていた。
生きようとする本能が視覚を補正したのかもしれない。
「うあぁぁぁ!!」
「はぁぁぁぁ!!」
吼えながら走る二人の刀がもうあと一寸で相手を捕らえる。
――ジャシャッ!!!
何かが砂利に崩れ落ちた。
「………うっ」
どちらとも区別のつかない第一声は短い唸り声。
そして次に放たれたのは…
「おらあぁ!!糞ガキどもー!痴話喧嘩は木刀までにしやがれボケェー!殺すぞ!!?」
壬生寺周辺どころか、屯所辺りまで届くほどの怒号。
「…ひ…じかた…さん?!」
怒号の主は喉を鳴らして死にそうな勢いで呼吸をする土方だった。
「馬鹿沖田!テメー帰ったらしばく!」
地面に倒れこむ沖田を真上から見下ろす土方は握り拳を作って見せた。