幕末異聞―弐―

「おい!そこの狸寝入り決め込んでる馬鹿女もだ!!」

さっと少し離れた場所でぐったりと転がっている楓に向き直る土方。



「……いや、本気で意識飛んでたから!何やの今の?!何が起こったん?!!」


ガバッと上半身を起こし、両手で側頭部を押さえる楓の目には、薄っすらと涙が浮かんでいた。


「そうですよ!土方さん、一体何したんですか?!」

思い出したように沖田も苦悶の顔を浮かべ、横腹を摩った。



「下駄投げた」


「「はい?」」


腕を組んで当然だという表情で仁王立ちする土方。
言われた言葉を理解できず、固まる楓と沖田。

「お前らの姿見たときにはもう抜刀してたんだよ。体が間に合わないなら物使えってな」

平然と落ちた下駄を片方ずつ回収する土方の姿を、二人は呆然と眺めていた。


「この痛みは…下駄のせいか」

「あんたまだええやん。うちなんて頭やで?!」

「うっせー猪!死ななかっただんだから文句言うな!!」

「死にかけたわボケーー!!」

ようやく得体の知れない痛みの正体を知った楓は、空かさず土方に食って掛かる。
体を起こそうと頑張る楓であったが、頭に衝撃を受けたせいで思うように体が動かない。




< 339 / 349 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop