50代のビキニ
大工
ある冬。
友人のともちゃんに「だいくを聴きに行かない?」と誘われた。
だいく? 大工??
聴く? 大工を聴くって?
わかんないけど「いいよ」って答えた。
神戸の幻想的な光の祭典 ″ルミナリエ″ の始まる前に、大工を聴くそうだ。
何だろう? だいくを聴くって。
私の頭の中では、大工さんがトンカチでトントン。ノコギリでギーギー。???
連れられて行った所は、某銀行の大ホール。
最初は、Oh!!
バイオリン、ピアノ、チェロ、コントラバス…。
黒いドレスやタキシードを着た美男?美女?がクラシックを演奏しているのだ。
指揮者、カッコイイ!
なんだ、なんだ、この世界は!!
わぁー、こんなの初めて。
これが、いわゆる、オーケストラーと言われるものか。
まるで夢心地。
わぁ~、いいわ。
素敵、すてき~。
感動に胸を 打ち震わせた。
だけど、これが何曲も何曲も続いた。
段々、眠くなった。
私達は前の方のいい席。眠いけど眠ったら失礼。
しかも、テレビ局が来て撮影しているではないか。
あぁ、私の前に来た!
止めて、やめて!
私は眠いのよ。見たらわかるでしょ。他の人を映してよ。
心の中で叫んだ。 祈った。
私は、出来ることなら、上下の目縁を指で支えていたいくらいだった。
昨夜、夜更かしをしたのが悔やまれた。
素敵なクラシックも、こんな状態では、もはや、拷問。
終わった。やったぁ!! と、思ったが、いよいよこれからが市民のコーラスによる大工じゃなくって第九の始まりだった。
ロビーの両脇から扇形の素晴らしい階段。階段上のバルコニー。
老若男女の市民が、居並ぶ。壮観。
合唱が始まる。
ほー! 凄い迫力。
この時は、気分一新、ようやく目が覚めた。
後日、友人、宣う。
「うちの主人が、この前の第九、ビデオに撮ってくれたのよ。それで二人で見たら、 プハー、プーちゃん、めっちゃ、眠そうだったわ!!」
「えっ、 うそっ! 恥ずかしい!」
こっくり、こっくりイスごとひっくり返りそうだった私。
まさか、と思ったけど放映されていたなんて!
カットしてくれよ~。私だけ。
穴があったら潜り込む。 もう、ともちゃんのご主人と会うのも恥ずかしい。
オーケストラーの皆さん、ごめんなさい。
次は、十分睡眠をとってから出かけます。





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